【有田圭一コーチ】「全身を使う」を考える①(古武術)
バドミントンの魅力は、何でしょうか。
やり続けているといろいろ出てくると思いますが、最初は多くの人が「スピード感」と感じるのではないでしょうか。
実際に、球技スポーツ界では最速の400㎞/時を誇りますし、上級者の速いスマッシュや動きに驚きを感じるものだと思います。
上を目指して続けていると勝ったり負けたり、負けたり、負けたり…と上達すればするほど、より強い相手との対戦が増えてきます。
なかなか勝てない…。
そうしているうちにもっと
- 強い球を打ちたい
- 速く動いて打ちたい
という気持ちが、出てくるのではないでしょうか。
強いスマッシュが一番の武器だった
私がバドミントンを始めたのは中学生からですが、当時の身長は約140㎝。
周りには身長160㎝を超える同級生達もいて、しかも中学生はナイロン球を使っていたので、強いスマッシュを打つことができればほぼ取られないという時代でした。
まったく、力でもスピードでも高さでも相手になりませんでした。
圧倒的に負けるのが悔しくて日々悩んでいる中、どうすれば勝てるのか?を真剣に考え、やはり当時一番の武器になっていた「強いスマッシュ」に憧れました。
腕をぶんぶん振り回して打ちまくった挙句、肘を壊し、強いショットを打つのはあきらめざるを得ませんでした。
それでもバドミントンは面白かったので、「素晴らしく速いスマッシュは打てないにせよ違う勝ち方はある!」と考え方を変えました。
そして、今度は速く動いて、さらにジャンプも加えて打点を高くすることで、相手をスピードで追い込むという方法に切り替えました。
よく決まるようになり、県大会では勝てるようになりました。
しかし、地方大会や全国大会では、ジャンピングスマッシュもコースを読まれてつながれるようになりました。
次第に足が疲れてきて息が上がり、エラーが増えて負けることが多くなってきました。
全日本シニアダブルス準決勝では、2ゲーム目に完全に見切られてしまい、ファイナルゲームでは一方的に攻められて負けたこともありました。
対戦相手の方に話を聞くと、「がんばりすぎやな…」でした。
振りぬくためには
バドミントンを始めたての初心者は、返球に対する準備イメージが少なく、目の前にシャトルが来てから打ち返そうとします。
ラケットは軽いので、当てることはできるようになります。
が、シャトルも軽いので、ラケットをある程度強く振り抜かないと飛びません。
スカッシュラケットなどを使って練習することでも、ある程度筋力も鍛えられますし、ラケットって軽いんだという感覚から振り抜きもスムーズになることもあるでしょう。
しかし、上には上がいるもので、タイミングをずらされたり、より強い球がくるとコントロールできません。
そこで選択するのが…「もっと強く速くラケットを振れる筋肉を身につける」と考えるのが一般的なように思えます。
- 強い球を打つ
- 速く動いて打つ
を求めるのは、戦術の中の一つの武器ですので、とてもいいことだと思います。
楽に速く動く
しかし、そのためにはどこを鍛えればいいのか、腕の筋肉?足の筋肉?と考えられがちですが、私はそれをやってきましたが限界がありました。
そこで出会ったプレーが、2005年世界選手権男子ダブルスで優勝したインドネシアのチャンドラ・ウィジャヤ選手でした。
安定した姿勢でコートに立ち、非常にコンパクトに振りぬくレシーブを見て「なんだこれは?!」と感動しました。
そこから、同じくインドネシアのタフィック・ヒダヤット選手、ヘンドラ・セティアワン選手の動き方の中に、共通するものがあるのではないかと分析するようになりました。
まるで、舞を舞っているようなスムーズで華麗な動き。
その当時の日本のバドミントンは、速く・強くを筋力トレーニングで実現する方向性がありました。
もちろん否定しませんが、自分の経験からはそれでは限界が来ると感じていたので、いかに楽に速く動くかを考えるようになりました。
古武術の「抜重」
華麗な動きを求めていると、
- アイススケート
- スキー
- カンフー
- 能
などの動きに、とても魅力を感じるようになっていきました。
そんな中で出会ったのが、古武術。
甲野善紀さんの活動でした。
ちょっとした形や意識を変えるだけで、大きな力が発揮できる身体操法の中に「抜重」というものがあります。
これは、床へかかっている圧力(体重など)を減らすことですが、抜重をすると一瞬無重力状態になります(膝カックンのような感じ)。
重力で地面に落ちていく力を利用して、逆の動きである腕を上げるという動作を補助したり、接地後の地面からの反力をいろいろな方向へ、もしくは体のいろいろな部位へ伝えていくというものです。
今まで特定の筋肉だけを使っていたところに、補助的に違う部分の筋肉(特に体幹)も動員できるようになります。
これができるようになると、腕の筋力に重力を含め体重を楽に簡単に利用できることになります。
体重を利用するには、床にその重さを伝えるだけというシンプルな動きで実現できるのですね。
抜重を行うには、少し条件があるようです。
最も大切なことは、全身をつなげておくことだと甲野氏は話されていました。
そこで必ず意識しなければならないのが、「肩を上げない」ということでした。
緊張したり不安感があると肩が上がりますので、そのあたりのメンタルコントロールも大切になってきますが、体からそのような心理状況を緩和することもできます。
簡単そうですが、意外とコート上でやるのは勇気がいるのですが、そのあたりとバドミントンへの応用も含めて次回はお話ししたいと思います。
バドミントンの名門校として有名な、「東大阪大学柏原高校」バドミントン部元顧問 バドミントン協会公認コーチ 短期間で、選手を劇的に成長させるその指導手腕が注目され、 これまで数多くのバドミントン雑誌で取材を受ける。 また、バドミントンの技術研究と、効果的な上達ノウハウの普及活動に余念がなく、 全国のバドミントンプレーヤーに人気のサイト、「バドミントンアカデミー」を運営。 選手としては、中学から大学在学中まで、バドミントンをプレーしており 個人戦で、継続的に全国ベスト16~32の成績を残した、優秀な選手でもあった。 シニア選手としても活躍し、全日本はもちろん、世界シニアにも出場している。
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