【有田圭一コーチ】「全身を使う」を考える②(抜重)

有田圭一

抜重で楽に早く移動

バドミントンへ「抜重」をどう利用するか。

移動する際、最も多く説明で使われるのが「床を蹴る」という表現です。

「しっかり蹴って!」と、アドバイスされた方も多いかと思います。

しかし、蹴る動作を行おうとすると、その準備のために足の関節(特に膝)を曲げて「タメ」を作らなければなりません。

この低く筋肉が緊張した姿勢を維持するだけでも筋力を消耗しますが、さらにそこから蹴って移動するために膝を曲げて伸ばすジャンプ運動(膝伸展運動)が、非常に筋力を消耗します。

長いラリーになればなるほど、確実に疲れが溜まってきます。

では、どうしてトップ選手は、長いラリーでも最後まで動き続けられるのか。

世界大会などで、特に余裕があるときにたまに見かけることのある、ラリー中にコート内を歩くような移動。

そして、相手が打つときにさっと姿勢を低くし、すっと足を出すフットワーク。

あれがまさに、抜重を駆使した移動動作です。

姿勢を低くするためには膝を曲げるのではなく、やや曲げて立っていた膝の角度を維持したまま、足を開いて姿勢を低くしています。

特に、膝は床に落下する体重を支えるためだけに使われ、蹴る動作は行いません。

片方の足の力を少し抜いて、さらに逆の足と時間差をつけて遅らせて着地すれば、その方向へ体が傾きます。

転びそうになる力で動き出し、それを支えるように足を出していくことが移動につながります。

抜重を使った初動は、ジャンプよりもかなり速いので、慌てて身構える必要がないのです。

鹿の移動でいい例がありました。

普段はゆるりと立っていますが、いざ逃げる時などは抜重を使って沈み込んで無重力を作り、姿勢を傾けていきます。

そこから転ぶ寸前まで姿勢を崩して、体の向きを変え、最後に後ろ足を蹴り出して移動しています。(RUN+ランプラス「野生動物に学ぶ」よりhttps://runplus55.com/sikasan)

転びそうな姿勢

運動会などで名物になっている、お父さんの徒競走。

いいスタートを切ったにも関わらず、ゴール前で足がもつれて転んでしまう風景はよく見かけました。

見かけるたびに「あっちゃー」という気持ちになってましたが、トップ選手でもサイド側へ来る強烈なスマッシュに対しては、手をつくまんで転んでしまわないと返球できない場合もあります。

昔は「転ぶな!」とよく注意されたものですが、今では返球してから手をついてうまく起き上がり、次の返球へ移動していくのもよく見かけます。

つまり、今では転んでしまうことに対して特にマイナスイメージはなく、次のショットに間に合わせる事ができればOKなのだと思います。

スズメなどは電線の上に上手に止まっていますが、あれはすごいバランス力だなと感心します。

本来持っている能力で問題なく止まっていられるのでしょうが、電線の上で緊張している様子などは全くありません(外敵への緊張はあると思いますが)。

鳥は落ちそうになっても、飛ぶことで回避する事ができるので、全身を使ってバランスを取る事ができているのでしょう。

「転んでも大丈夫」という安心感が、普段の姿勢をよりリラックスした状態に保てていると思います。

バドミントンは騙され、動かされるスポーツです。

常に、不安定な姿勢を強いられる可能性があります。

その時には、頭を上下動させたり、水平目線を傾けないようにしなければならないことは以前にも書きましたが、それができない状態にも慣れておく必要があります。

転びそうな環境に身を置いてうまくバランスを取る、もし転んだとしてもダメージが少ないようにとっさに受身を取るなど。

そういう訓練を日頃からしておくべきだと、甲野善紀氏は述べられていました。

不安定に慣れる

不安定な状況をどう作るか。

バドミントンで考えてみると、例えば

  • ノックの球出しをする際に打ち出し側の手元が見えないようにする
  • 逆に右手と左手の両方にシャトルを持って見せておいて、どちらも投げる動作をしながら片方だけを投げる

などが、手軽にできる状況作りでしょうか。

より上級者と練習するだけでも、そういう不安定な状況は作り出しやすいので、やはり環境も変えて出稽古的練習は大切ですね。

加えて甲野氏は、「一本足下駄」を使うことも勧められていました。

不安定が強いと言われる氏の考え方の根本が、ここに見える感じがします。

動画では、一本足下駄を履きながら転んで、受身を取るものが紹介されていました。

足首をひねって転び、さっと回転して受け身をとっていました。

「甲野善紀古武術ってナンだ!?3スポーツに応用できる古武術」

https://youtu.be/nL2UNzS5A8Q

さらに、解剖学者の養老孟司氏は、自然から学べと述べられています。

山道などは、ごろごろ石が転がっている。

そこを歩くだけでも不安定を感じられるし、感覚を養う事ができるとのことでした。

思いかえせば、私の中学時代も部活動での山ランニングが日課でした。

平日は5kmですが、週末になると10kmにコースが伸びて、凸凹があったり石がゴロゴロしている山道を走りました。

たまに足をグネって痛めてしまうこともありましたが、慣れてくると最初から足の力を抜いておいて、転ぶのを回避できるようになりました。

さらに、「先を見る」ことで緊張を緩和していたと思います。

目の直前だけに集中していると、次から次へと目に入ってくる情報が多すぎて処理できずに対応できません。

しかし、ある程度先を見ておくと、何がくるかの予想ができます。

そうなると、余計な緊張も少なくなって肩関節が下がることで、体全体が繋がって使えるようになるのだと思います。

ーひとことー

たまに、小さい子供を連れているお母さんが子供が走っているのを見て、「走ったら転ぶよ!」と声を荒げているのを見かけます。

あれを見るたびに、「この子は走るたびに転ぶ恐怖を植え付けられているのかな?」と思う事があります。

もちろん、命に関わる危険が伴うところなどではそうさせない方がいいですが、

  • 思いっきり走って転ぶという体験
  • 落ちる体験

は、たくさんさせた方がいいと思います。

そういう家庭における幼少期の体験は、意外と大きな差となって現れてくるのではないかと思っています。

子供がなんで走ってそこへ向かうのか?

それは、そこに何かワクワクするものがあるからですよね。

この記事を書いた人有田圭一有田圭一
バドミントンの名門校として有名な、「東大阪大学柏原高校」バドミントン部元顧問 バドミントン協会公認コーチ 短期間で、選手を劇的に成長させるその指導手腕が注目され、 これまで数多くのバドミントン雑誌で取材を受ける。 また、バドミントンの技術研究と、効果的な上達ノウハウの普及活動に余念がなく、 全国のバドミントンプレーヤーに人気のサイト、「バドミントンアカデミー」を運営。 選手としては、中学から大学在学中まで、バドミントンをプレーしており 個人戦で、継続的に全国ベスト16~32の成績を残した、優秀な選手でもあった。 シニア選手としても活躍し、全日本はもちろん、世界シニアにも出場している。
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